2011年11月30日

1-2 個人に開かれた電子書籍マーケットとは

 アメリカで電子書籍作家が台頭したのはアマゾンのキンドルサービスにある

Amazon DTP(Amazon Digital Text Platform)

という仕組みに負うところが少なくありません。Amazon DTPという画期的なシステムがなければ、電子書籍がこれほどまでに急速に発展することはなかったかもしれません。

  Amazon DTPの特筆すべきところは、一定の条件を満たす電子書籍をアマゾンで販売する場合は、極めて高率のロイヤリティ、つまり印税を作家に支払うことにしたことにあります。その印税は

70%

という高率でした。正確にはデータの配信費用($0.15/MB)の負担を差し引いてからの「70%」ですが、それでも驚くべき印税率です。おかげで、アマゾンDTPでの電子書籍は瞬く間に膨らみました。

 従来の出版社が作家と契約して支払う電子書籍の印税は、一般的に25%程度です。電子書籍の販売価格は紙の書籍の半額程度が普通です。紙の印税は10%程度なので、一冊あたりの販売での印税額は少し増えるだけです。しかしAmazon DTPだと配信費用を差し引いても販売価格の60〜65%が印税となるのです。こうなると作家が出版社を中抜きしたいと考えるのは無理もありません。

 アマゾンがキンドルの自己出版サービスに「70%」のロイヤリティオプションを追加したのは2010年6月30日です。キンドルストアで販売されていた電子書籍は2010年4月末の時点で40万冊でした。この40万冊の中には著作権の切れたパプリックドメインの書籍が多く含まれています。「70%」のロイヤリティオプションが追加されて3ヶ月もたたないうちに、キンドルストアで扱われる電子書籍はなんと70万冊を超えました。

 現在、Amazon DTPはサービス名を変更し、

Kindle Direct Publishing

と呼ばれています。日本語でいうとキンドル自己出版というところでしょうか。日本でKDPサービスがどのようになるのかはまったくわかりませんが、アマゾンのDTPサービスがアメリカでの電子書籍の供給に大きな役割を果たしたことは間違いありません。

 アマゾンの自己出版サービスが普及した理由は、誰でも自由に参加して出版物を販売することが可能だったからです。多くのキンドル作家は、最初は無料の書籍をアップロードし、そこから有料の電子書籍に誘導する方法をとりました。そのためキンドルブックスのベストセラーのリストには、無料の書籍がいくつも並ぶようになりました。まず無料で読んでもらうことで作品を知ってもらい、面白ければ続きは有料で買ってもらうというやり方でした。

 アマゾンの電子書籍が成功したのは、キンドルブックスをダウンロードして閲覧できるデバイスを限りなく多くしたからです。キンドルブックスを読むにはKindleという専用端末が必ずしも必要なわけではありません。スマートフォントなどでのビューワーソフトも幅広く普及させています。

 2009年のクリスマスシーズンにKindleの端末が爆発的に売れた要因と一つして、同年の3月に「Kindle for iPhone and iPod touch」がリリースされ、iPhoneやiPod touchでキンドルビューワーが数多くインストールされたことがWikipediaで指摘されいます。端末が売れたのは、ユーザーの多くがキンドルビューワーに馴染んでいたためなのです。実際、「Kindle for iPhone and iPod touch」のリリース以降に、キンドルブックスのダウンロード数は飛躍的に大きくなっています。

 しかしそれだけでなく、電子書籍の普及には、キンドルというプラットフォームが電子書籍作家のニーズを喚起したことにもあるのではないでしょうか。出版社に認めてもらって作家になることは簡単ではありませんが、アマゾンであれば誰でもいとも簡単に作家になることができます。作家になりたい人がアマゾンのキンドルを普及させた部分もあります。

 日本でもキンドルのサービスに期待する声は小さくありません。しかしそうはいっても、いまだアマゾンは日本でキンドルのサービスを始めていません。近いうちに始まると噂されますが、日本の出版社との商慣習の違いから、大手の出版社との交渉はなかなか進んでいないようです。

 また、アメリカで行っているように「70%」のロイヤリティオプションが、日本での個人向け電子書籍自己出版に適用されるかどうかはわかりません。個人がこれから出版業を目指すユーザーにとっては、「70%」のロイヤリティオプションが用意されるかどうかは大きな関心事でしょう。

 現在キンドルでは「70%」のロイヤリティオプションを適用するにはいくつもの条件があります。まず販売価格は2.99ドルから9.99ドル以内となっています、またそれ以外にも読み上げオプションに対応する必要があります。日本でもテキストの読み上げに対応しなければならないとすれば、ハードルはかなり高くなるかもしれません。

 電子書籍で個人が自費出版するためには、アマゾンのように誰でもが簡単に参加できることが大きな条件となります。個人に開かれてない配信プラットフォームはおそらく生き残ることは難しいでしょう。電子書籍は片方向のブロードキャストでは成り立ちません。ユーザー参加型のプラットフォームでなければ継続できないのではないでしょうか。


◆Amazon、Kindleのデジタル出版に新しく70%のロイヤルティ契約を用意
http://jp.techcrunch.com/archives/20100120amazon-royalty-kindle-dtp/


◆米国Kindleストア、取扱い書籍数は順調に伸びて現在700,000超
http://jp.techcrunch.com/archives/20100923u-s-kindle-store-now-has-over-700000-books/


◆アマゾン・キンドル[Wikipedia]
http://bit.ly/spdTVa

 


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