2011年12月29日

1-4 リプレースできない専用端末は売れない

 iPhoneやiPadでのアプリ配信は、個人が電子書籍を配信する上での2つの条件を満たしています。つまり、閲覧環境の多さ、参入障壁がないことです。誰でも申し込めばiPhoneやiPadでアプリを申請して配信することができます。日本ではいれ以上の電子書籍配信プラットフォームはありません。

  とはいえ、iPhoneアプリ形式で電子書籍を売る場合、いくつかの問題があります。ハードルは決して低いわけではありません。開発者として登録することは簡単でもそのから先が遠いのです。もっとも大きなハードルとは

アプリを作成しなければならないこと
申請しても却下されることがあること


などです。配信するためにはXcodeというソフトウエアを作成するソフトでアプリケーションソフトを作成することが必要です。キンドルのようにテキストを送信すればOKというわけにはいきません。ここで大抵のユーザーはあきらめるでしょう。また、iPhoneアプリの場合、アップルの規約によって登録できる内容が制限されています。そのため、申請しても審査されて、作成したアプリが却下されることがあります。ですから、App Storeで簡単に電子書籍を配信できるわけではありません。

 しかしとはいえ、iPhoneとiPadのiOSは全世界で2億台以上普及していると言われています。日本のシェアは概算で6%程度と言われていますので、すでに日本でも一千万台超のiPhone/iPad/iPod touchのiOSが普及していることになります。

 日本でシャープの肝いりで開発された電子書籍の専用端末にガラパゴスがあります。シャープは発表当初100万台を目標にしていましたが、1年を待たずに最初の端末は販売を終了し、最終的には実売で1万台も売れませんでした。シャープ以外の国産の専用端末もそれほど大きな違いはありません。

 アメリカではKindleを始めとして電子書籍専用端末がよく売れています。しかし日本ではほとんど専用端末は売れません。もともとKindleが売れたのは、新刊書を買うより、Kindleを買って電子書籍を買う方が合理的だったからです。Kindleを買うと得したからKindleが買われたのです。必ずしもKindleという専用端末が欲しかったからではありません。

 アメリカでは新しい本はハードカバーで発刊されます。新刊ハードカバーは20〜30ドル程度で販売されます。アメリカには再販制度がありませんから、出版社は最初ハードカバーは高く売り、書籍の鮮度が落ちてくるとバーゲンして安売りに転向します。となると読者は世間で話題の新刊本を読みたければ20〜30ドルで買うしかありません。

 しかしアマゾンはその20〜30ドルの新刊本の電子書籍版を9.99ドルで売りました。読者はKindleで電子書籍を買うと、1冊あたり15ドル程度安く新刊本が手に入ることになります。Kindleが爆発的に売れるようになったのは、2009年の第二世代のときで、そのときのKindleの販売価格は259ドルでした。ですから、読者にとって20冊程度ハードカバー本を買えば、Kindle本体代が回収できることになり、それ以上は、新刊本が安く買えるわけです。つまり、ハードカバーの書籍代は端末のKindle代にリプレースされたのです。

 ハードカバーを9.99ドルで売ると逆ざやになって、アマゾンでは赤字になる書籍がたくさんありました。しかしわかりやすい価格設定とアマゾンが損して販売していることは大きな話題になりました。そのことで、Kindleで電子書籍を買うことが一気に浸透していったのです。最終的には9.99ドルの統一価格はなくなりましたが、アマゾンは電子書籍で圧倒的なシェアを握ったのです。

 しかし日本では再販制度があって、アメリカのように状況に合わせて価格を見直すということができません。そのため最初からハードカバーで売れる書籍はそれほど多くありません。高くても確実に売れる本だけがハードカバーで販売されます。

 また販売部数をのばすために、最初からダウンサイジングした新書や文庫で発行される書籍も当たり前になっています。つまり、日本ではもともとの紙の書籍の販売価格がアメリカよりも低いのです。新書や文庫は高くても千円までですから、仮に電子書籍の販売価格を半値にしても、専用端末代をリプレースするのは簡単ではありません

 ましてや、高機能の専用端末を高い値段であっても欲しいと考える読者はごくわずかです。専用端末のマーケットはそれほど大きくはありません。おそらくこれから専用端末が廉価になっても、よほどの魅力がなければ普及することは難しいでしょう。

 また、日本では専用端末が普及するまえで、スマートフォンがいっきに普及しました。iPhoneの普及はすざましく、Androidも同じように売れています。これらは既存の携帯電話をリプレースして販売台数を飛躍的に増やしています。専用端末を用意しなくても、iPhoneやAndroidでも十分に電子書籍を読むことができるのに、専用の端末は果たして必要でしょうか

 日本で電子書籍を売りたいのであれば、スマートフォンをマーケットにするべきです。iPhoneはauが参入し2011年度内に1000万台程度の普及は確実でしょう。iPadもiPad2が販売されるようになって普及が進み、日本でも200万台以上売れていると言われています。

 もし日本で書籍を電子化して売りたいのであれば、iPhoneで売るのがベストです。Androidベースのスマートフォンやタブレットは台数こそ普及していますが、ユーザビリティの点で必ずしも同じデバイスとすることはできません。もちろん基本のOSは同じですが、それぞれにカスタマイズされており、メーカーはより違いを際ただせる方向で開発します。そのためすべてのAndroid端末を同じように扱うことは無理があります。iPhoneやiPadは同じユーザビリティを提供する端末であり、ユーザビリティの点ではもっとも普及しているOSなのです。

 iPhoneやiPadではいずれアップルがiBookstoreをローンチしてくるでしょう。iBooksは電子書籍のためのプラットフォームです。しかし、iBookstoreの日本語版が開始されるのが、いつになるのかは誰にもわかりません。日本語の縦組みに対応したEPUB3も完成しましたのでもう間近だと思われますが、いまから日本語のコンテンツを揃えるには時間がかかります。ですから、電子書籍を売りたいのであれば、現在はiOSアプリとして配信する以外の選択肢はありません

 iPhoneやiPadでアプリ形式の電子書籍を販売するには、高いハードルがあります。しかしハードルが高いのために、競争相手はそれほど多くはありません。高いハードルを乗り越えて電子書籍アプリを発行することが、電子書籍でベストセラーを生み出すもっとも近道なのではないでしょうか。


◆iOS端末は2億台、iPadは2500万台を販売−−Appleが実績を発表
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1106/07/news021.html

◆シャープ「ガラパゴス」の顛末、わずか10カ月で軌道修正
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/3075fbcefbe4d8d8986841403d44cdc5/

 


タグ:iPhoneアプリ
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