アプリのリジェクトは大きく2つに分けて考えるとわかりやすい。1つはアプリの機能や仕様に関するものだ。たとえば
2.1 Apps that crash will be rejected
(2.1 クラッシュするアプリはリジェクトされます)
という条項が「2.機能性」の最初に書かれている。立ち上げたときクラッシュして使えないアプリは審査を通さないという意味だが、これはわかりやすい。これはアプリの仕様に関するもので、コードに問題があるものはApp Storeの並べることはできない。
もう一つはアプリのポリシーに関わるものだ。アップルが求めている方向性に沿っていないものもリジェクトされる。同じ「2.機能性」にある
2.21 Apps that are simply a song or movie should be submitted to the iTunes store. Apps that are simply a book should be submitted to the iBookstore.
(2.21 シンプルな歌や動画はiTunes storeに申請してください。シンプルな本はiBookstoreに申請してください。)
あたりは機能ではなくポリシーといえる。シンプルな歌や動画をそのままアプリにしてもアプリとしては問題はないが、App Storeの方針として禁止している。App Storeに並べるものはアプリとしての特徴や機能を持ったものでなければならない。
これらのリジェクトを的確に理解する場合、審査ガイドラインに書かれている言葉を意味を正しく理解することが重要だ。厄介なのはその意味と解釈が時とともに変わってくるということである。あるときガイドラインの解釈が変更され、いままで審査に通っていた機能やポリシーが通用しなくなる。これらは予告なく発生する。
解釈が変わると審査基準は厳しくなる。おそらくは厳しくなるというより、いままで緩めてあった手綱を本来の位置に戻しただけだろう。事前に案内がある訳ではないのでリジェクトされてから、解釈が変更されたことを知るのである。
この2年ほどの間にブックアプリではいくつもの審査ガイドラインの予告のない変更でのリジェクトに甘んじてきた。具体的にいうと、
2.20 Developers "spamming"リジェクト
リストア未実装リジェクト
10.6 低品質インターフェースリジェクト
2.23 iCloud未対応リジェクト
というリジェクトがいままでに発生した。それまでリジェクトされなかったものがリジェクトされるようになり、審査基準が変わったことを知ることになる。このうちiPhoneアプリの機能や仕様が変更されたことによるリジェクトは「リストア未実装リジェクト」と「2.23 iCloud未対応リジェクト」になる。
「リストア未実装リジェクト」は審査ガイドラインにも書かれていないもの。同じアカウントで別のデバイスからアプリ内課金コンテンツをダウンロードするとき、リストすると購入情報がが反映される仕組みである。もともとXcodeではリストアを実装できたが、使わないとしても罰則はなかったのでほとんど使われていなかった。おそらく不正アカウントによるアプリ内コンテンツの購入とiCloud対応の本格化(iOS 6)を控えてのことだろう。これにより、リストア機能を持たない(アプリ内課金を使う)アプリはリジェクトになった。
「2.23 iCloud未対応リジェクト」もiOS 6のリリースで顕現したもので、iCloudと同期するアプリ内データの扱いがiOS Data Storage Guidelinesに従っていない場合はリジェクトされるようになった。iPhoneのiCloudが導入され約10ヶ月くらいで、iOS Data Storage Guidelinesの準拠が強制となった。審査ガイドラインに追加されたのは2012年4月で約4ヶ月くらいでリジェクト対象になっている。
「2.20 Developers "spamming"リジェクト」と「10.6 低品質インターフェースリジェクト」はアップルのiOSアプリポリシーに関わるもので、アプリの仕様ではなく、アプリの在り方や品質が変更されることで、リジェクトされたものである。審査ガイドラインの言葉が変更追加されたわけはなく、解釈厳しく変更されたことによるリジェクトである。
「2.20 Developers "spamming"リジェクト」は同じ特徴を持ったアプリを複数申請すると、開発者登録を抹消するという厳しいガイドラインで、登録抹消されるまえにアプリはリジェクトされる。しかも部分的に修正してもアプリは審査に通らない。ブックアプリの場合は、iBookstoreで申請するか、ビューワーアプリを申請してアプリ内課金コンテンツとして配信するしかない。
「10.6 低品質インターフェースリジェクト」は単純にアプリの機能が少なすぎてリジェクトされるもの。以前はブックアプリにナビゲーションバーがなくても、目次メニューがなくてもいくつかは申請は通ったが、とうとう機能が貧弱なものは申請が通らないようになった。使わなくても、アプリらしく最低限のメニューやボタンは必要となる。ただしどこまでが最低限なのかは難しい。今後さらなハードルは高くなるかもしれない。なお、SakuttoBookでの10.6でのリジェクトは聞いていないが、Lite版は対象になってしまった。
iPhoneアプリのリジェクトは、機能や仕様に関するものは、iOSの機能が追加されたことによるものが少なくない。新しい機能が追加されたり、偽課金サーバのような事件が起きるとそれに合わせてアプリの仕様が厳密に審査され、想定外のリジェクトが発生する。ただし、ボリシーに関わることはリジェクトを予想しにくい。「2.20 Developers "spamming"リジェクト」と「10.6 低品質インターフェースリジェクト」はアップル社内でそれなりの理由があったに違いないが、表には出てこないものなのでポリシーリジェクトは予想が難しい。
ただし、日本ではこれから日本版のiBookstoreがローンチすると、アップルのプックアプリポリシーは変わってきそうだ。アメリカでは単純なブックは「iBookstoreで申請してくれ」と指定されるので、日本でも同じように指示されていくだろう。多少の機能があっても、iBooksのEPUBでできるものはリジェクトされるに違いない。
日本語の縦書きに対応したiBooksは電子書籍としては多くの機能を持ち合わせている。もしiBooksで可能な機能しかないようなブックアプリであれば、App Storeでの申請が通らない可能性がある。つまりアプリとしては認められないということだ。アップルがApp Storeに求めているのはアプリであって、電子書籍ではない。たまたまアプリを創ったらブックアプリだったというものでなければならない。
iBooksはEPUB 3ベースにしており、かなりインタラクティブな機能を搭載している。ブックをアプリとして申請するには、EPUB 3ではできないような機能を持たせなければならないだろう。アプリ化することで実現した機能を持たせるしか生き残る道はないと思われる。SakuttoBookは、すでにEPUBではできないインタラクティブな機能をいくつも搭載しており、その点についてはさらに強化していく予定である。
電子書籍をiBookstoreに申請して、App Storeのブックアプリと同じようにダウンロードされるのであれば、iBookstoreでリリースしても全くかまわない。しかしそれはあまり賢い選択肢ではないだろう。iBookstoreに電子書籍を並べると、App Storeと同じように売れるとは限らない。おそらく当分は売れないのではないか。
iPhoneやiPadと同じように、アプリはユーザーにエクスペリエンスを与えるものでなければなければならない。それがアップルのスタンスである。単純な電子書籍にしてiBooksに申請するか、よりインタラクティブにしてApp Storeに申請するか、よくよく天秤にかけて思案する必要があるだろう。単に電子書籍化したいのであればiBookstoreでいいか、より多く人に届けたいのであればアプリしか選択肢はないのではないだろうか。
◆App Store審査ガイドライン対訳解説
セミナー動画もバンドルしました。
↓ ↓
http://www.incunabula.co.jp/book/reject/
◆SakuttoBook(サクッとブック)でiPhoneアプリを作る方法
http://bit.ly/mhgjCG
◆Xcode 4対応のSakuttoBook Lite版ならぬTrial版、無料ダウンロード開始
http://denshi-shoseki.seesaa.net/article/263470895.html
◆Xcode 4でiOSアプリの設定と申請を最短距離でする方法
http://bit.ly/Jk88Bc
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