2014年01月24日

iOSブックアプリのロングテールで栗を拾う

 日本でiPhoneのブックアプリが壊滅し、もう少しすると1年が過ぎようとしている。電子書籍の多くはKindleに流れて、残念ながらiOSが以前のように賑わうのは難しそうだ。戻るにしても時間はかかるだろう。とはいえ、競争相手のほとんどなくなったiOSブックアプリは、やり方次第でこっそり儲けることができるのではないかと思うのである。

 かつて出版社も書店も儲けはロングテールにあった。それぞれのジャンルには放っておいても売れる定番の書籍があり、出版社はそれらを発行し書店は棚に並べるだけで商売になった。雑誌や新刊本よりも、手間がかからず儲かった。しかし、出版業界も競争が激しくなった。定番本は他社にターゲットオンされて新刊本に取って代わられた。出版社も書店も「今売れる本」を扱うしか生きる道がなくなったのである。

  とはいえ出版業はロングテールにこそ旨味がある。初期コストを回収した書籍がコツコツと売れることで利益を生み出し儲かるのである。長く売れ続ける本をたくさん持っていれば、不労所得でビジネスが成り立つ。それは電子書籍も同じで、たくさんの電子書籍を発行できるのであれば、たくさん発行した方が勝ちである。電子書籍の場合は、売れるプラットフォームで数多くのロングテール電子書籍が必要となる。

 そういう意味では、電子書籍はKindleでたくさん発行する方が間違いない。日本でも電子書籍はKindleの方が分があるという意見が多い。iOSのブックアプリはAppleの歪んだポリシーのために撤退が続き、携わる開発者がほとんどいなくなった。ブックアプリを申請してもリジェクトされる以上、こればかりはどうしようもない。それでもiBookstoreがiOSのブックアプリのようにガンガンダウンロードされているのであれば、iBookstoreに移行すればいいだけだ。iBookstoreだと年間の開発者フィーもプログラミングも不要だから、電子書籍発行サイドにもメリットはある。

 ところが日本でのiBookstoreはKindleに負けているらしい。いままで「iBookstoreはよく売れます」という話は聞いたことがなく、「Kindleの方が売れてるぞ」という話しか耳にしない。アメリカで後発のiBookstoreがKindleに負けるのは仕方がないが、日本ではiPhoneのシェアは高く、ブックアプリではあれほどAppleは先行していた。それでもKindleに負けているとすると、iBookstoreの仕組みそのものに問題がありそうだ。

 iBookstoreは敷居が極めて高い。Kindleはテキストデータを用意すれば、電子書籍をアップロードして販売することができる。面倒なのはアメリカの税金を免除する方法がややこしいくらいで、電子書籍の作成と販売は極めて簡単だ。それに引き替えAppleはApple仕様のepub3での入稿を要求する。epub3も規格化されたものを独自にカスタマイズしており、HTMLが読めなければファイルの作成は難しい。どう見てもiBookstoreはスキルの低いユーザーを排除しているとしか思えない。

 もともとAppleはハードウェアメーカーであり、ソフトを販売したり、プラットフォームを構築することにはあまり関心がない。AppleがKindleやKoboなどからユーザー参加型のプラットフォーム構築の担当者を引き抜いたとは聞かないので、iOSアプリもiBookstoreの責任者もハードウェア開発的な思考しか持ち得ない中で、電子書籍プラットフォームのシステムを組んでいるのだろうと思われる。いずれにしても、ハードウェアで利益の大半を得ているAppleにすれば、iOSアプリやiBookstoreの売上や利益は目くそ鼻くそ程度のものかもしれない。

 AppleはiOSで電子書籍に携わっていた開発者を足蹴にした。最初からiBookstoreのローンチで単体ブックアプリをリジェクトするのであれば、アメリカで単体アプリをリジェクトしたときに日本でも完全にリジェクトするべきだったのである。それがAppleのポリシーだというのであれば、最初からリジェクトすればよかったのである。それをせずに自社の都合だけで、日本では審査を通した。そしてiBooks Authorローンチとともに、予告もなく単体ブックアプリのリジェクトを開始した。「足蹴」にしたといわれても仕方がない。

 ブックアプリの開発者を足蹴にしたことで、iPadの売上はその分減ったに違いない。Macintoshの売上にも響くだろう。iOSの開発者が多くなればなるほど、iPadはその分売れて、Macintoshも売れるからである。iOSの「シンプルな本はiBookstoreに申請してください」という審査ガイドラインにあるポリシーの方が、Appleに取っては日本でのiPadやMacintoshの多少の売上より重要だからに違いない。

 Appleのポシリーが間違っているということをいいたいわけではない。ただ、一斉説明せずにいきなりリジェクトしたので、開発者にはApple憎しという感情が沸き立ったことは想像に難くない。その程度あればまだしも、一方的なリジェクトはブックアプリ以外のiOS開発にも影響するだろう。iOSのアプリはAppleの都合でいきなり予告なくリジェクトされたり削除される可能性があるからだ。これではビジネスモデルの構築はできないと思うユーザーも少ないないのではないか。


 さて本題はここから。世間的にはAppleがブックアプリを通さなくなったので、iPhoneのブックカテゴリはダウンロード数が減り閑古鳥が鳴くようになった。そうはいってもトップをとればそこそこのダウンロード数はある。ブックアプリが総合ランキングから消えたわけではない。以前ほどは売れていないにしても売れないわけではない。

 それではKindleとiOSとどちらがマーケットが大きいのかというと、明らかに日本ではiOSの方が大きい。KindleとiOSのブックカテゴリで比較すると、それはおそらくKindleやiBookstoreの方が大きいだろう。ただしこれらは競争相手も少なくない。といより大手出版社が参入しているので、弱小零細は立ち入る隙間があまりない。アメリカでは電子書籍マーケット始動で著名になった無名作家が何人も輩出したが、すでにマーケットが固定化しつつある日本の電子書籍プラットフォームでは、アメリカのようにはいかないのではないか。KindleやiBookstoreも売れているは漫画だけといっても言い過ぎにはならないのではないか。

 そこでまだしぶとくiOSのブックアプリをものにする方法を考えている。競争相手は少ないのでアプリさえ通れば、たくさんのブックアプリをラインナップできる可能性がある。単体アプリは審査を通せないが、ビューワーアプリだと複数のアプリを審査を通すことができる。内容が同じ場合はリジェクトされるが、テーマが異なっていると、いまのところリジェクトされてはいない。iBookstoreローンチ以降、4つのブックアプリの審査を通した。

 それで競争相手がいないことを幸いに、青空文庫のコンテンツをビューワーアプリ化している。最初に「夏目漱石」をリリースし、次に「吉川英治」をリリースした。「夏目漱石」は同様のアプリがいくつもあるし、「吉川英治」も単体作品のアプリはあるので競合はあるが、アプリ化されてないが名前の通った作家も少なくない。昭和初期の大衆作家はアプリ化すると需要を見込める作家がまだまだいる。いまのところ、岡本綺堂、小栗虫太郎、国枝史郎、海野十三とかはアプリ化したい。

 今年以降も著作権切れになる大物作家には

2014年 野村胡堂
2015年 尾崎士郎
2016年 谷崎潤一郎
      江戸川乱歩


などがいる。こうした有名な作家の作品はいつの時代でも読みたい需要はある。「青空文庫だったら、専用のビューワーアプリで読めるじゃないか」という意見もあるだろう。その通りだ。しかしiPhoneで「黒死館殺人事件」や「小栗虫太郎」で検索しても、アプリはリストされない。作家別のアプリを作成すればiOSデバイス検索に対応できるのである。青空文用のビューワーアプリの存在を知らない人も世の中にはたくさんいる。

 また専用ビューワーでは本を読んだ気にはならない。ダウンロードするといきなりテキストが表示される。表紙もなにもない。体裁として本ではなく、単なるテキストデータでしかない。非常に味気ない。読み終わっても「一冊読んだぞ」という感慨も湧かない。やはり表紙があって、仮にでも本の体裁を保持して本棚に並べたいという気持ちはあるのではないだろうか。

 問題はそういう方法で何冊のビューワーアプリをラインナップできるのかということになる。もしこの方法で100アプリ申請して通すことができれば、1アプリあたり1日で1Tire稼げば、月間で二十万円程度の収入になる。3 Tierで売れば3日で1本売れればいい。2 Tier稼げば、その倍になる。青空文庫コンテンツのメリットは、ロングテールが長く効くということだ。

 もちろん青空文庫でなくてもかまわない。出版業としていろいろな著者の書籍をアプリ化してもよい。体裁がビューワーアプリになっていれば、リジェクトはされないから、同じようにブックアプリを持つことができる。著者と印税を折半すれば、1アプリあたり1日で2 Tier稼げばよい。テーマがかぶらず、コンテンツを流用しなければ基本的には通るはずである。

 ビューワーアプリ形式であれば、青天井で申請は通るのか。それはやってみなければわからない。しかし、同じようなことに取り組んでいる開発者は少ない。というかほとんどない。同様のことを多くの開発者が行うようになれば、目をつけられてリジェクトされる可能性はあるが、現在のように申請数が少ない現在、コンテンツが重ならなければリジェクトする理由は見つからないはずだ。

 ビューワー形式にしてアプリが通るのであれば、いままでと同じようにブックアプリは申請できるし、競争相手が少ないだけにコンテンツの陳腐化が遅れて、ロングテールしやすくなる。長期的な観点に立てば、iOSアプリはまだまだ捨てたものではない。iOSブックアプリは火中の栗ではない。もう火は消えている。あとは頃合いに焼けた栗を拾いにいくだけである。


◆吉川英治 大全[iTunesプレビュー]
http://bit.ly/1dEHMh4

◆夏目漱石 大全[iTunesプレビュー]
http://bit.ly/1eL5Qys

◆進撃の巨人、ミスリードの謎[iTunesプレビュー]
http://bit.ly/1ciakMP

◆SakuttoBook(サクッとブック)でiPhoneアプリを作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/Sakutto/index.html

 


posted by @jink0222 at 18:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | SakuttoBookのリベンジ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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