Kindleブックスにはパブリックドメインの電子書籍がたくさんアップされている。とはいえ有名どころのパブリックドメインのKindle本は飽和状態なので、売れるかどうかはわからない。パブリックドメインの申請にはいくつか制限があるが、本を書かなくてもラインナップを増やすことができる。これは試してみなければならないと思い、2つのパブリックドメイン本を申請してみた。
KDPではパブリックドドメイン本、つまり簡単にいうと青空文庫や曇天文庫からテキストファイルをダウンロードしてepubにすると、そのままKindleストアに並べることが可能だ。とはいえKDPのヘルプの「パブリックドメインコンテンツの出版」にはいくつか制限が記載されている。
・他のサイト経由で既に入手可能なパブリックドメインのコンテンツの取り扱いはお断り
・差異のない複数のアイテムを取り扱わず、無料版を1点のみ提供
・作品の独自性があるもの、独自の翻訳、独自性の強い注釈、10点以上の固有の図版
というのが主な条件である。
しかし実際にはパブリックドメイン本は、複数のコンテンツがKindleストアには並んでいて、独自性があるとは思えないものも少なくない。価格も無料のものもあるが、有料で販売されているものもいくつかある。有料のものは青空文庫にはないパブリックドメイン本やシリーズや何冊からなる大長編の合本などがある。
そこでまずあまり手のかからなそうな本を選んでKDPに申請してみた。吉川英治著「鳴門秘帖」全6巻を一冊にしてepubを作成して申請した。価格は100円とした。アップロードした翌日には何事もなく審査が通りKindleストアに並んだ。あまり手をかけずにそのままアプリ用のPDFのテキストを流用して作成した。ただ、各巻の冒頭には表紙画像を挿入した。区切りがないと本を読んだ気にならないからである。
◆鳴門秘帖 全6巻 吉川英治 [Kindle版]
審査が通ってしまうと、ヘルプの「パブリックドメインコンテンツの出版」にある制限とは何だったんだろうかと思える。もっとも規約が厳しく適用されるようになれば、出版停止になってしまう可能性もあるかもしれない。合本した場合は「差異のない複数のアイテム」にはなりにくく、同じものがなければ審査はとおる可能性はたかいだろう。
それで調子に乗って次に本丸を攻めてみることにした。本丸とは「三国志」である。吉川英治といえば「三国志」こそが本命である。「序」と本編10巻、篇外余録を合わせてepubを作成した。さすがにこれだけあると、InDesignでは厳しかった。ほぼ出来上がってから冒頭にページを追加しようとすると、やたら時間がかかってしまうのである。書き出したepubも重く、Sigilですぐには開かないのである。
他の類書との差別化を図るために、まずJIS規格外の外字はすべて画像化して埋め込んだ。JIS規格外でもユニコード番号があれば、iOSでは表示するゴシック体でしか表示しない字形もある(Android版のKindleでは明朝で表示された)。おそらくiOSの標準フォントであるヒラギノ角ゴW3はすべてのユニコード字形を持っているが、ヒラギノ明朝はAdobe Japan1-6の字形しか用意してないためではないかと思われるが、本当のところはわからない。部分的にゴシックになるより、明朝で表示させたいので、画像にして埋め込んでみた。
もう一つは地図を作成して挿入した。三国志時代の地図である。手元にソフトカバー阪『中国の歴史(陳舜臣著)』の三巻があったので、その中の地図を参照した。まず中国大陸の白地図を探してきて、地図のページをスキャンしてIllustrator上で重ねた。境界線をペンツールや鉛筆ツールで作成し、主な都市を書き入れた。地図は後漢末の十三州の境界線と、三国鼎立自体の境界線の地図を作成し冒頭に配置した。
*Kindle PreviewerのKindle Fireでの表示。Sigilでepub内部の画像を差し替えたが、うまくいかなかった。外に置けば、修正や追加は簡単にできるのがメリット。
ところが、リフローのKindleブックでは配置する画像のサイズには制限がある。127KBしか使えないのである。ところが作成した地図は中国全土の地図なので、左右が2600ピクセルもあった。JPEGで圧縮しても600KB程度にはなってしまう。ダウンサンプルすると文字が読めなくなってしまう。仕方がないので、画像はWebにアップし、そこにURLリンクを貼ることにした。
◆三国志 全10巻 吉川英治 [Kindle版]
挿入したのは2点の地図なので「10点以上の固有の図版」というわけにはいかないが、とりあえず申請した。翌日、「アマゾンからのお知らせ」というメールがやってきて、パブリックドメインについての確認がきた。確認内容は下記の2つ。
1.作品の初版の発売日, 使用されたオンラインリソースのURL
2.それぞれの作品の著者と翻訳者の氏名および死亡日
すぐさま初版日とオンラインリソース、著者の没年を返信した。翌日に「提出された本がKindleストアで出版されました」というメールがやってきた。「鳴門秘帖」のときはパブリックドメインについての確認はこず、「三国志」でやってきた、その違いはよくわからないが、確認内容を返信すると、審査は通るようである。
パブリックドメインについてはTPP絡みで死後70年になりそうな方向に向かっている。それでも法案化されて施行されるまではすこし時間があるだろうし、すでにパブリックドメイン化されたものは、対象外になるだろう。青空文庫にないパブリックドメイン本は独自にKindle本にすれば、ある程度は売れるのではないだろうか。実際そういうものはランキングされている。そういう書籍は古本屋を回っても手に入らないものなので、Kindleで電子化される意義は大きいと思う。
なお書き忘れていたが、パブリックドメイン本はKDPセレクト対象外なので、ロイヤリティは35%となる。
◆パブリックドメインコンテンツの出版[KDP]
◆鳴門秘帖 全6巻 吉川英治 [Kindle版]
◆三国志 全10巻 吉川英治 [Kindle版]